COLUMN / VOL.4
汗というと、どのようなイメージがありますか?
スポーツで流す汗など、健康的でさわやかなイメージもある一方、普段の生活ではどちらかというとポジティブなものよりは、「なんだかニオイそう」「清潔感がなさそう」など、「できるだけ汗はかきたくないもの」といった印象を持たれる方が多いのではないでしょうか?
私たちの日常生活の中では、汗をかいてしまうシーンがいくつもあります。例えば、通勤の満員電車。暑い夏はもちろんのこと、冬場はコートなど防寒対策をしっかりした状態で乗るので、ぎゅうぎゅうの電車の中が蒸し風呂のように感じることも。約束や会社などに遅刻をしてしまいそうで、急いで走ったとき。夏は外を少し歩くだけでも汗だくになってしまうこともあります。
日常の中での汗をかくシーンは、あらかじめ予想できる場合もあれば、ふとしたタイミングで思いがけず汗が出てしまうことも。思いもよらない汗には「どうしよう」と焦ってしまうこともあるでしょう。しかも、かいた汗が洋服にまで染みてしまったりしたら、他の人からどう見えるかと思うと、余計に気になってしまいます。そんな状況は、できれば避けたいものですよね。
女性の場合は汗をかくとお化粧崩れも気になります。せっかく朝丁寧にお化粧をしたのに、会社や目的地に着くころにはドロドロに……。
一体、私たちはなぜ汗をかくのか。汗が出る仕組みや、その対処法を見ていきましょう。
まずは、汗が出る仕組みを理解しよう
私たちは通常、何かしら活動をしているので、成人で1日にだいたい1リットルの汗をかくと言われています。真夏など、暑い時期には1時間当たり400~500mlの汗をかいていると言われています。
一体なぜこれほどまでに汗をかくのでしょうか?
汗には私たちの体温を調節するという重要な役割があります。体温が上昇すれば汗をかき、汗が蒸発するときの気化熱により体内の熱を逃がして体温を下げます。そのため、季節や屋内・屋外など条件によって汗の量は変わります。体温が上昇する要因があれば、汗をかき体温を下げて快適な状態を保つようにできているのです。
では、この汗はどのような仕組みで出るのでしょうか。汗は、私たちの皮膚に存在する「汗腺」と呼ばれる場所から分泌されます。汗腺には2種類あり、「エクリン腺」と「アポクリン腺」に分けられます。
体温調整が主な役割のエクリン汗腺とは
エクリン腺は私たちの体のほぼ全体に分布しています。その数は、成人男性では約300万個と言われています。エクリン腺から出る汗は成分の99%が水分で残りの1%はほぼ塩分。さらっとしていてニオイや色はありません。エクリン腺から出る汗は、汗をかく状況によって3つの種類に分けられることができ、それぞれの働きが異なります。
・温熱性発汗
上昇した体温を調整するためにかく汗のこと。
・精神性発汗
緊張や興奮をすることによってかく汗のこと。
・味覚性発汗
刺激のある辛い食べ物などを食べることでかく汗のこと。
これらがエクリン腺から出る汗です。基本的にはさらさらしている汗なのですが、日ごろ運動不足などで汗をかきなれていないと、べとべとした汗になってしまうので、日ごろからサラサラした汗をかけるよう、生活習慣に気を付けると良いでしょう。
ニオイの元、アポクリン汗腺
アポクリン汗腺はエクリン汗腺とは違って、全身にあるわけではなく、体の中でも脇や耳、デリケートゾーン、へそなどに集中しています。
アポクリン腺はエクリン腺と異なり、体温調整以外の役割も持っています。それはニオイを作ることです。アポクリン腺から出るニオイは、個体や仲間同士を認識させたり、異性を引き寄せるためのフェロモンのような役割を持っています。
今でも、多くの動物はアポクリン腺が発達しています。かつては人間にも、今よりもっと多くアポクリン線があったと言われていますが、進化の過程で少なくなってきました。なおこのアポクリン線の量は、個人や人種によって差があり、黒人や欧米人にはアポクリン線が多く存在し、日本人は少なめと言われています。
アポクリン腺から出る汗は、アルカリ性で水分は70%~80%と少なく、ベトベトしています。そして脂質やタンパク質、アンモニアなどの成分が含まれています。ワキガなどによるいやなニオイはアポクリン腺から出る汗が原因です。
こんな症状は多汗症の疑いあり!
多汗症は汗を過剰にかいてしまう病気です。
自分ではただの汗かきだと思っていても、実は多汗症だったということもあります。激しい運動をしたり、暑い中にいたり、緊張や興奮した時、辛いものを食べるなど、理由があって汗をかくのは自然なこと。それが多汗症では、特に汗をかくような理由がないのに多量の汗をかいてしまいます。
これは汗をかくことで温度調節をするという主な役割を持った、本来の汗のメカニズムが正常に働いていないために起こることです。
一方で、大量に汗をかく人でも、汗をかく理由があってかいている場合は多汗症ではないことがあります。ただ、多汗症かそうでないかは、専門医でなければ見分けがなかなかつきにくいので、気になる方は一度専門医に相談をされてみることをお勧めします。
勘違いしがちですが、
ワキガと多汗症は違うもの
ワキガと多汗症が同じものだと思っている方は多いかもしれませんが、実はこの二つは違うもの。
多汗症だからといって、必ずしもワキガだということはありません。その大きな違いはニオイにあります。
多汗症は大量の汗をかくもののニオイは少なく、一方でワキガはニオイが強くなりがちです。多汗症の場合の汗の多くはエクリン腺から出ており、ワキガの原因となる汗はアポクリン腺から出ているのでそもそも出ている汗の種類が違います。アポクリン腺から出る汗には、タンパク質、脂質、アンモニア、鉄分などの成分が含まれていて、その成分が皮膚表面の菌に分解されることで、ワキガ特有のニオイとなりやすいのです
汗かき?それとも多汗症?
違いはなに?
簡単に言えば、体温を調節するといった汗をかく理由がある状態で汗が出ているなら汗かき、汗をかく理由が特にない状態で汗をかくなら、多汗症の疑いがあります。
汗は通常、体温を一定に保つために出ます。汗かきの人は激しい運動をしたときや、気温が上昇して暑さを感じたときに、体温調節のために汗をかくのですが、それが通常よりも敏感で、早い段階から汗をかいてしまいます。
また、汗の量も他の人より多く、全身から噴き出る様に汗が出て拭いてもなかなか止まりません。一方、多汗症の人は適温で快適な状態でも汗をかいてしまいます。体温調整の面から考えて、汗をかかなくても良い状況で大量の汗をかくのが多汗症なのです。
全身から汗をかくのではなく、顔や手、足の裏など、局所的に汗をかくことが多いのも多汗症の特徴です(全身から汗をかく症状の多汗症もあります)。
多汗症の原因を知ろう
冬多汗症の多くは、精神的なストレスが原因と言われています。
ストレスを強く感じる場面は私達の生活の中でしばしばあります。失敗してはいけないことにチャレンジするときや、大勢の前に出なければいけないときなど、緊張をしてストレスレベルも上がります。
しかし、こういった場合だけでなく汗をかくケースもあります。たとえば、のんびりとリラックスしているときや、朝目が覚めたばかりのときなどです。これまで多汗症は「精神的に緊張したから多量の汗をかく」とされていたようですが、実際は少しニュアンスが違います。正しくは、緊張したときに自律神経のうちの交感神経が過度に敏感になり、それが原因となり多量の汗をかくのです。
交感神経は、発汗を促す神経なので、敏感になると発汗を促進してしまいます。そのため、ストレスのある状態や生活習慣により、自律神経が正常なバランスを失うと多汗症の原因となります。ただしなぜ緊張状態やストレスを感じたときに交感神経が敏感になるのかは明らかになっていません。
そして、精神的な問題を抱えている方が全員多汗症になるというわけではありません。ストレスが続く生活だけでなく、更年期などでホルモンのバランスが崩れる場合にも、同様の症状が出ることがあります。
この他、直接的な原因にはならないと言われていますが、遺伝と多汗症の関係性に関する研究をしている専門家もいます。ストレスを感じやすい神経質な性格や、あがり症など緊張しやすい性格が遺伝し、多汗症の原因になるというものです。
多汗症には二つの種類があります
多汗症には全身性多汗症と、局所性多汗症の2種類があります。
全身性多汗症は頭から、背中、胸、お腹、お尻、手足まで、全身に大量の汗をかきます。更年期障害や病気が原因で症状が起こることもあります。
もうひとつの局所性多汗症では、顔や、手のひら、足の裏、わきの下、頭部など、限られた部分のみに多量に汗をかきます。
緊張したときに、手に汗をかく経験をしたことはありませんか? 緊張で手に汗握る、ということ自体は誰にでもある自然な状態ですが、生活にも不都合があるような大量の汗が出るなら、多汗症かもしれません。
局所性の多汗症は、男性と比較して女性に多くみられます。思春期前後に発症し、大体の場合40歳代前に自然に軽減されると言われています。そして、手のひらだけではなく、足の裏にも汗をかきやすくなる人も約半数ほどいるようです。
これは、精神的な要素が大きく影響しており、緊張やストレスから発汗することがほとんどです。
汗だくでも焦らない!
多汗症の対処法
多汗症に対処するためには、まず交感神経の働きを正常にする必要があります。そのためには、自律神経の働きを整えることが大切です。
現代人の不調のほとんどは「ストレスや生活習慣による自律神経の乱れ」だと言われているほど、私たちはストレスの多い社会に生きています。そのため、意識的に毎日の生活の中で、自律神経を整えることで、交感神経の働きを正常に近づけていきましょう。
規則正しい生活や食事をし、仕事モードとプライベートのオン・オフをちゃんと切り替えてリラックスできる時間を持つようにして、できるだけストレスを溜めないことで、自律神経のバランスを整えるようにしていきたいですね。
ちなみに、クロルヒドロキシアルミニウムが配合されている制汗デオドラント剤では、汗に含まれる水と皮膚の細胞が汗腺をふさぐ役割を果たし、発汗を抑えることができることができます。また最近では、汗の出口にしっかりフタをして、汗が出る前にブロックする効果があるものでています。
コツコツがポイント、
食生活で多汗症を改善
多汗症は、交感神経の働きが活発になりすぎることによっても症状が出やすくなると言われているので、交感神経の働きを落ち着かせる食べ物を摂取することで、改善が期待できます。
交感神経の働きを落ち着かせるのに効果があるとされている成分が、イソフラボン。豆腐、納豆、豆乳、油揚げなどの大豆製品に多く含まれる成分です。その他、ひじきや海藻、キャベツ、ゴボウなど、食物繊維を多く含んだ食材や、クエン酸が含まれている梅干、レモンなどの酸っぱい食品、味噌、醤油などの発酵食品も効果的です。
こうした成分が多く含まれている食べ物は、和食に多いです。和食中心の食事を心がけることで、多汗症の改善につながるので、積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ
汗の役割やメカニズムをご理解いただけましたか?汗にはちょっとネガティブなイメージもあり、女性にとっては化粧崩れなどの問題も引き起こすので、できればかきたくないもの。
でも、汗は私達の体温を調整する大切な役割を担っています。汗をかくことで私たちは熱を放出して体温を一定に保っています。こう考えると、汗に対する意識や考え方も変わってくるのではないでしょうか。
ただ、汗をあまりにもかきすぎる場合は、服まで汗が染みてしまうなど、困った状況になることがありますし、多汗症という病気の可能性もあります。汗と上手にお付き合いする上で大切なのは、一人で悩みすぎないこと。汗の役割やご自身の体の状態をちゃんと把握した上で、その汗をかく理由があって問題ないものであれば、汗対策をしっかり行っていき、もし「病気なのかも?」と思われるようであれば、早めに専門医に相談をしてみることです。
「汗なんてイヤだ!」と思わず、ご自身の体と向き合うきっかけにしてみるのがおすすめです。
-
PROFILE
監修者:医学博士
五味常明先生昭和大学形成外科等で形成外科学、および多摩病院精神科等で精神医学を専攻。患者の心のケアを基本にしながら外科的手法を組み合わせる「心療外科」を新しい医学分野として提唱。ワキガ・体臭・多汗治療の現場で実践。わきがの治療法として、患者が手術結果を確認できる「直視下剥離法(五味法)」を確立。TVや雑誌でも活躍中。流通経済大学スポーツ健康学部、客員教授。